インターネットでにきび
赤血球から白血球であるリンパ球が産まれる理論については、私はM氏の著書より知ってはいたが想像の域を出ることはできなかった。
しかし、かつてM氏が撮った血球分化に関する動的な映像を拝見させて頂くことによって、想像の世界を打破ることができたのである。
1957年に行われた研究内容の一部(カエルの有核赤血球のゆくえについての内容)をビデオで見せて頂いた。
私は固唾を呑みながら、やや興奮気味に瞬きするのを惜しんで映像の前にかぶりついた。
その内容は、まさしくM氏の書籍どおりの内容が映し出されていた。
古い映像だが、赤血球から見事にリンパ球が誕生しているのを約1コマ/5秒のシャッターにおける連続撮影により、はっきりと血球が活き活きと動いているのを捉えている。
カエルの脈打つ心臓より採取された一滴の血液より標本を作ることから始まり、その後、顕微鏡の視野での映像が続く。
映像をじっと見ていると、ひとつの赤血球から合計4つのリンパ球が生成された。
ひとつのリンパ球が生成されるのに約5分かかり、その後、全過程を終えるまでに約1時間かかるそうである。
赤血球の膜が破れ、細胞質だけでなく一部核成分も流出して、次第に別の細胞として独立して成長していく。
後で、どんどん細胞質が肉付けされ、リンパ球が大きくなっていく。
中には、赤血球の細胞膜が後退していって、それがあっという間にリンパ球になるものもある。
これは、まさしく変身といっていいだろう。
赤血球(カエルの有核赤血球を用いている)から白血球が新生する過程には様々なものがある。
前述したシーンを字面より想像して頂きたい。
ひとつの赤血球よりリンパ球が4個生まれ、穎粒白血球なら1個生まれる(変わる)といった分割方式の新生である。
次に、赤血球の中身である細胞質が流れ出て、それらから自然と核が発生していき、やがて穎粒白血球になるといった流出方式である。
最後に、赤血球の核の表面より発芽するように成長してきて、大きくなったらやがて分離して穎粒白血球となるといった発芽方式である。
一般的なものは、流出方式であるらしい。
詳しくは『自然医学の基礎』『血球の起源』を参照して頂きたい。
身体をぐるぐるめぐっている血液には壮大なドラマがあり、カエルの生きた一滴の血液には真実が隠されている。
その真実を見破るかは、信念で決まってくる。
研ぎ澄まされたM氏の観察力に答えるか如く、カエルは真実を教えたのであろう。
この映像を撮るために、M氏は、撮影機器も自分で考案して作成した徹底振りである。
この機器が当時、東京都の発明大会で優勝したのである。
今は科学も進歩し、精密機械の精度が上がり、当時と比べると測定のしやすさに雲泥の差があるに違いない。
にもかかわらず、この学説が表に出てこないのは、ほとんどの学者が、この学説に興味がないか、知らないかのいずれかであろう。
しかし、たとえ技術が進歩しても、赤血球から他の血球に変わるのを撮影する事は、根気が要る作業に変わりはない。
M氏は当初の研究の苦労について語って下さった。
「ほとんどのフイルムは溜まりに溜まって、ゴミ箱行きであった。
とにかく、辛抱強く、赤血球が白血球になるのを待つしかない。
プレパラートにのった何十万もの赤血球のうち、たった一視野について10個ほどの赤血球を選んで観察し続ける。
確率的にいって非常に低い。
ましてや、その選ばれたものが必ず動きを見せるかわからない。
確率的に言ったら1%くらいだろう」
この撮影の内容の過酷さがひしひしと伝わってくる。
私は凄いものを見てしまったと、終始鳥肌がたってしまった。
そんな動きやすそうな赤血球をどのように選んだのだろうと疑問に思った私は、続けて質問した。
「ある時、視野を変えながら赤血球を眺めていると、一瞬、リンパ球をひとつ産んだ赤血球が目に入ったので、急いで、シャッターを下ろし始めた」
このときのM氏は、大海原に遭難している小舟を発見したような感覚なのではないかと勝手に私は思っているのだが。
偶然見つけたようなことを、M氏は言われたが、鋭い感性と地道な基礎研究があってこそ、このチャンスをものにしたのである。
この気の遠くなるような研究は、機械任せでは見つからなかったであろう。
生理学実験の落とし穴現代医学は、生理学、病理学、解剖学といった基礎的な実験をもとにして成り立っている。
しかし、その実験は、当然、生きた人間において行うことは倫理上できないわけで、マウスやラットを使うことになる。
ここに、人間ではないという大きな隔たりがある。
そして、一番の隔たりは、試験管実験と生体実験との隔たりではないだろか。
試験管中(インヴィト)と生体中(インヴィーヴォ)では、起きることは全く同じとは言い切れない。
人体とは、パソコンなんて比較にならないほど複雑な構造を持っている。
生理的な機能面においては、様々な複雑な環境要因により様相を変えるので、詳細を正確に把握するのは困難である。
ちなみに、ガン細胞が細胞分裂を起こすことは、試験管の操作された環境内だけに生じるのであって、生体内のガン細胞が分裂をしたのを確認した人は誰もいないはずである。
それに、細胞を顕微鏡で観察する時など、細胞を生体から切り離すわけで、もうこれは正常細胞と異なるものである。
M氏はつぎのように述べる。
「生きているカツオと花ガツオとの違いのようなものだ。
花ガツオを顕微鏡で調べながら、海の中を勇然と泳いでいるカツオの、生きている組織活動の実体を知ろうとしているのが、現代医学のやり方だ。
そんなこと、土台できるわけがないのである。
カツオブシの場合は、まだしも割合自然な方法で乾燥させている。
それに対して、医学的な研究においては、とくに病理学の研究においては、観察する細胞に対してかなり不自然な操作を加えている」
死体と生体は、たとえ外見同じに見えても、別物であると同様に、生体内での組織と生体から切り離された試験管での組織では、全く別物なのである。
試験管内組織が生体内組織と別物だとしても、医学の貢献のために、これを利用して真理を追究していく姿勢はすばらしいことである。
ただし、試験管内組織であるという事実を引き算して考えるのを忘れてはいけない。
また、実験生理学の始祖、C・Bは、生理学での平均の使用は、生物学的な機能的現象の本質的に動揺しやすいリズミカルな性格を消してしまうとしている。
これは、18世紀フランスの解剖学者・生理学者Bの伝統を受けついでいるといってよいだろう。
「人はあれやこれやの被験個体から無造作に取り出した尿や、唾液や、胆汁等を分析する。
そしてそれらの検査から、動物化学が生まれる。
それはそれでよい。
しかしそこには生きている動物についての生理学は存在しない。
もしこういってよければ、それは流体の死体解剖学である。
それらの生理学は、流体がそれらの各器官の状態に応じてもつ無数の変化についての知識から、組み立てられるものである」(B『生と死の研究』、C『正常と病理』による)。
単純な試験管内の世界で起きたことを、複雑多岐な生体内にも当てはめようといった発想はあまりにも短絡的である。
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